未来は思い出よりも美しい 〜「背信」
同じようなタイプのオトコばかり好きになる、という愚かな話をよく聞く。
人並み以上に男性遍歴を重ねてきたヒロミの場合も、
分類してみるとどうも2種類の男性としか付き合ってこなかったような気がする。
ということは、2タイプの2人だけで十分だったようで、
数々のオトコたちとのいちいちアレコレの経緯を思い返すとどっと疲れが押し寄せる。

パターンAは、頭脳明晰の理科系。
クールで行動力があり、ヒロミとは趣味も得意分野もまったく違うタイプ。
秘密主義で、たぶん嘘つき。
行動範囲の想像がつかないから、嘘だったのかどうかも確認できず、
気持ち悪いままヒロミがくたびれて終わり。

パターンBは、ヒロミとは同類の文科・芸術系タイプ。
純粋ないい人。感情の流れや考えていることが手に取るように分かるし、
可能性も限界も見えてしまう。鏡を見ているようなのがイヤになってヒロミが逃げて終わり。

AのあとにB、BのあとにA。直近のタイプに懲りて、次は別のタイプと付き合うことになる。

現在進行中のケースケは明らかにパターンAだ。
最初から二股かけられているのはうすうす感じていたが、ヒロミの情熱も落ち着いてきた近頃では、
ケースケがそれほどヒロミに執着する気もないならもうやめてもいいやと半ばあきらめ気味。
二股かけるくらいだから、粗雑ながらも結構マメなのがパターンAの特徴だ。
3週間も放っておかれたあとで、週に3回もデートに誘われたりする。
その法則性の読めなさがパターンAの魅力で、ついつい関係を続けてしまう。
つきあいが長くなると思い出の数も多くなり、
イヤだなという思いをさせられることが増えてきても、
過去の美しい情景が脳裏をよぎって別れを切り出すことを邪魔する。
別れまでのパターンは始めから読めてるっていうのにさ。

ケースケと終わったら、今度はぜひぜひパターンCに挑まなくちゃと思う。
AB以外にどんなタイプがいいだろうと思いを馳せる。
まず、金持ちがいいな。
これまでフツウの女子たちのように
お金にこだわらなかったのが失敗のもとだったのだ。
収入や資産はそこそこでもいいが、
お金に対して卑屈じゃなくて、
金銭感覚が偏っていない人がいいなあ。
次に、健康かな。
これまでは大らかに食べる人が好きだったが、
それは栄養に関して無知ってことだし、
自分の健康管理もできないような人は自己管理能力欠如ってことだもんな。
病院嫌いで検査も受けないのは、
臆病で現実と正面から向き合わないってことだしな。
3つ目は、何だろう。
AやBとは違う、想像もつかない魅力を持った人であってほしいなあ。
ヒロミひとりで生きているのでは経験できないような、
思いがけない世界を見せてくれる人であったらなあ。
思いがけない展開の後に、読めない結末が待っていたらいいな。
そんな夢想のことを「希望」とよぶのだろう。


「背信」著者:ハロルド・ピンター




●最終話:妄想は賢い女の娯楽道
●第二十七話:秘められた人生計画
●第二十六話:若いだけで素晴らしい
●第二十五話:堕ちてくオトコを助けない
●第二十四話:未来は思い出よりも美しい
●第二十三話:終着点を越えて
●第二十二話:品行方正の言い訳
●第二十一話:そういう人になりたい
●第二十話:本当のお姫さま
●第十九話:昔あったかもしれない楽園
●第十八話:愛を仕分ける年末
●第十七話:ステキな小学生を探せ!
●第十六話:初恋はエクスプレス
●第十五話:帰れない観光客
●第十四話:熟女も踊る
●第十三話:あと出しジャンケン
●第十二話:家電ヒストリー
●第十一話:ご長寿アニマルのたくらみ
●第十話:食べるならとことん
●第九話:異邦人は直訳で会話する
●第八話:こだわらない性格
●第七話:白黒つけたい!
●第六話:他力本願はソレだけ
●第五話:冬眠する蝶
●第四話:イタい女
●第三話:サバイバルのことではなく
●第二話:チョイ役の冒険者
●第一話:レモン・ロマン・やせガマン


Storyteller : 高倉アリス

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