サバイバルのことではなく
ケンちゃんは、地主の名家の跡取り息子。
親戚縁者に囲まれて、広大な田畑を守りながら暮らす、典型的なカントリーマン。
初めて出会った居酒屋で「無人島に連れてってみたい」とケンちゃんに言われたとき、
「意外と私みたいに生命力のなさそうなタイプが、飄々と生き残ったりするんですよ。」と
やんわり返したものの、内心ムッとした。

ウララは典型的な都会っ子、身ぐるみはがされて無人島に送り込まれたら、
生きていく術はない、が、なんだい!なんだい!それが悪いか!
田舎者がそうやって自分のサバイバル能力を誇ろうとするのは、
都会っ子へのコンプレックスの裏返しなんだから!

小学校の図書室に「二年間の休暇」という、分厚い本があった。
陽光きらめく南フランスあたりで、魚釣りしたり、庭仕事したりして、
のんびり長い休暇を過ごした大人が書いた日記、という感じがした。
そんな長い休暇をとれるなんて一体どういう人なんだろう?
「休暇」なんだから、定年退職した人の話ではないのだろうし。誰さ??
2年とは、永遠とも思える長い時間だ。
うらやましいけど、そんなに休んだらもう社会復帰したくなくなるだろうに。
毎日、学校の授業もめいっぱい、塾とお稽古事で息つく暇もなかった小学生時代、
ウララはぼんやり思っていた。

—— 結局、そんな分厚い本を読めるような長い休暇も持てないまま大人になり、
「二年間の休暇」が「十五少年漂流記」のことだと気づいたのは、つい最近のこと。
「休暇」と「漂流」とではずいぶんイメージが違うじゃないの!とだまされたような気がした。

田舎者のケンちゃんとはお互いの文化の違いが面白くって
楽しいお付き合いが始まったのだけど、わずか4ヶ月で破局した。
田舎のしがらみを嫌悪するようなことを言いながら、
それを断ち切る気なんてまるで無いケンちゃんの生き方がウララには我慢できなかったのだ。
自分を縛るものすべてポーンと天高く放り投げ、
スミからスミまで自由を謳歌して生きてこそ人生、というのがウララの絶対譲れない主義だから。

「二人で無人島の話をしてるんだけど、それぞれ違うことを言ってるんだよなあ。
気づいてないんだねえ。」
あの時、居酒屋のご主人は、二人を眺めて笑っていた。


「二年間の休暇」(「十五少年漂流記」) 著者:ジュール・ヴェルヌ




●最終話:妄想は賢い女の娯楽道
●第二十七話:秘められた人生計画
●第二十六話:若いだけで素晴らしい
●第二十五話:堕ちてくオトコを助けない
●第二十四話:未来は思い出よりも美しい
●第二十三話:終着点を越えて
●第二十二話:品行方正の言い訳
●第二十一話:そういう人になりたい
●第二十話:本当のお姫さま
●第十九話:昔あったかもしれない楽園
●第十八話:愛を仕分ける年末
●第十七話:ステキな小学生を探せ!
●第十六話:初恋はエクスプレス
●第十五話:帰れない観光客
●第十四話:熟女も踊る
●第十三話:あと出しジャンケン
●第十二話:家電ヒストリー
●第十一話:ご長寿アニマルのたくらみ
●第十話:食べるならとことん
●第九話:異邦人は直訳で会話する
●第八話:こだわらない性格
●第七話:白黒つけたい!
●第六話:他力本願はソレだけ
●第五話:冬眠する蝶
●第四話:イタい女
●第三話:サバイバルのことではなく
●第二話:チョイ役の冒険者
●第一話:レモン・ロマン・やせガマン


Storyteller : 高倉アリス

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