他力本願はソレだけ
「どの時点であきらめるものなの?」
ヨウヘイのたぷたぷしたお腹をなでてみる。
昔はスリムだったという人が、
どの時点から太り続けることを受け入れるのか、カナコには疑問だった。
「二人目を生んだ後戻らなくなったとか言うけど…。
性格にもよるでしょうね。あきらめてしまえる…。」
「恋をするのをあきらめたとき、あきらめるんじゃない?」ぽつりとヨウヘイ。
ん?…ということは、なんでヨウヘイはこんなに手放しにまんまるなんだ?

初詣客も途絶えた、平日の昼下がり、閑散とした神社の境内。
「いかん。500円玉しか無い。2人分合わせて出しとくよ。」
「じゃあ、私は100円分でいいわ。」
お財布の中で冷え切っていたコインを1枚手渡す。

「何をお願いしたの?」
「アフリカに行けますように、って。」
ヨウヘイは昨年あたりから何故かアフリカにロマンを感じているようだ。
「そんなの、行こうとさえ思えば行けることじゃん。
こういう場所では、自分の意志ではどうにもならない、
運におまかせするしかないようなことをお願いしなきゃ。健康とか、安全とか…」

でも煙草と深酒を繰り返してたら、健康をお願いしてみても、だめかもねえ。
たいていのことは、自分の意志ひとつで何とかなるのかも。
他力本願にならざるをえないのは、「愛し続けてもらう」ことくらいかなあ。

「お守り、買う?」
「もうこれ以上いらないわ。国内・海外、宗派を問わず、山盛り持ってるもん」
「じゃあ、おみくじでも引くか」
ヨウヘイもカナコも無難に「吉」。まずは交換して読む。
「生来大きな夢を持っている人だが、大きすぎて苦しむことがある…だってさ」
「え?私の?」

そうだ、私はアフリカだろうが南極だろうが、「行きたい!」と思った時点で何が何でも行くのだ。
「行きたいなあ」なんて口にしながら行動しない人は、本当には行きたいと思ってないに違いない。
そんな煮え切らないぐずぐずした態度は大っ嫌い!

「ヨウヘイが行こうが行くまいが、私6月にアフリカに行くよ。
エールフランスのマイレージの期限が来ちゃうから、もう予約しとくもんね。」
ぷいっとカナコは歩き出す。
「そっかぁ…、あ、じゃあ現地集合だね。僕は全日空のビジネスクラスで行くから」
ヨウヘイは小走りで後を追う。


「シェルタリング・スカイ」1990年 イギリス
 監督:ベルナルド・ベルトルッチ
 出演:デブラ・ウィンガー/ジョン・マルコヴィッチ
「アフリカへ行きたい」 作詞・作曲 荒井由実




●最終話:妄想は賢い女の娯楽道
●第二十七話:秘められた人生計画
●第二十六話:若いだけで素晴らしい
●第二十五話:堕ちてくオトコを助けない
●第二十四話:未来は思い出よりも美しい
●第二十三話:終着点を越えて
●第二十二話:品行方正の言い訳
●第二十一話:そういう人になりたい
●第二十話:本当のお姫さま
●第十九話:昔あったかもしれない楽園
●第十八話:愛を仕分ける年末
●第十七話:ステキな小学生を探せ!
●第十六話:初恋はエクスプレス
●第十五話:帰れない観光客
●第十四話:熟女も踊る
●第十三話:あと出しジャンケン
●第十二話:家電ヒストリー
●第十一話:ご長寿アニマルのたくらみ
●第十話:食べるならとことん
●第九話:異邦人は直訳で会話する
●第八話:こだわらない性格
●第七話:白黒つけたい!
●第六話:他力本願はソレだけ
●第五話:冬眠する蝶
●第四話:イタい女
●第三話:サバイバルのことではなく
●第二話:チョイ役の冒険者
●第一話:レモン・ロマン・やせガマン


Storyteller : 高倉アリス

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