愛を仕分ける年末
ツキコは毎年100枚だけ年賀状を購入する。
出したい友人が増えた場合、誰かを名簿から削除する。
今年は何人と新しいお付き合いが始まったかしら、と考えると同時に、
そろそろ誰と縁を切るかを考える。
五千円以上使いたくないというケチな了見ではない。
このまま年賀状だけやり取りしていても、もう会うこともないだろうし、
会ったところで盛り上がる思い出話も大してないのであれば、
人間関係を新陳代謝していくことは必要だと思うのだ。

ずっと長い間、一番はじめに書いていた「ア行」の名前の恩師は昨年亡くなった。
一番最後に緊張しながら書いていた「ヤ行」の元上司は今年亡くなった。

早々に削除していた昔のオトコの名前が突如復活する年もある。
ツキコくらいの年齢になると5年や10年音信不通でも、「切れた」とは断定できない。
若いころの1年は、今や10年くらいの感覚だ。
「やあ、ご無沙汰!」ってノリで再登場されても、そんなに違和感を感じない。
「どうしてた?」って、この20年を「まぁ、元気にしてた」で片付けていいものか、
一瞬とまどうものの、過ぎてしまえばそのひと言に集約できるような気もする。

ケイタの20年は、ちらっと聞くだけでも、
「その現場に立ち合っていなくて良かった」と
胸なでおろす、波乱万丈の出来事の連続。
今はやっと落ち着いたようだから、
ある時期縁が切れていたのはラッキーなことだったみたい。
お金もたくさん貯まったらしく、
会うと気前よくご馳走してくれる。
金持ちかどうかはどうでもいいことだけど、
お金が無いことで卑屈になる男は嫌い。
だから、今のケイタの鷹揚な様子を眺めるのは気持ちいい。
ツキコとの初デートの時、高そうな店に気後れしてピザ屋で済ましたことが心残りで、
高級天ぷら屋に連れて行くのがずっと夢だった、とカワイイことを言う。
天ぷら食べたら「ハイ、ツキコはこれで終わり」って、名簿から削除されるのはつまんない。
夢の実現は、当面先送りでよろしく。


「セイムタイム、ネクストイヤー」 著者:バーナード・スレイド




●最終話:妄想は賢い女の娯楽道
●第二十七話:秘められた人生計画
●第二十六話:若いだけで素晴らしい
●第二十五話:堕ちてくオトコを助けない
●第二十四話:未来は思い出よりも美しい
●第二十三話:終着点を越えて
●第二十二話:品行方正の言い訳
●第二十一話:そういう人になりたい
●第十八話:愛を仕分ける年末
●第十七話:ステキな小学生を探せ!
●第十六話:初恋はエクスプレス
●第十五話:帰れない観光客
●第十四話:熟女も踊る
●第十三話:あと出しジャンケン
●第十二話:家電ヒストリー
●第十一話:ご長寿アニマルのたくらみ
●第十話:食べるならとことん
●第九話:異邦人は直訳で会話する
●第八話:こだわらない性格
●第七話:白黒つけたい!
●第六話:他力本願はソレだけ
●第五話:冬眠する蝶
●第四話:イタい女
●第三話:サバイバルのことではなく
●第二話:チョイ役の冒険者
●第一話:レモン・ロマン・やせガマン


Storyteller : 高倉アリス

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