
「離婚した」と言うと、「大変だったでしょう」と言われる。
結婚するより別れるほうが大変、と世間は思っているらしい。
おどろおどろしい離婚劇が、世の中にはたくさんあるのだろう。
が、サトミの場合、「何で別れたの?」と聞かれても説明しにくく、
「じゃあ何でそもそも結婚したの?」と聞かれた日にはお手上げだ。
「そうでしょうねえ、夫婦の問題は第三者には理解できないものよねえ」などと、
わけ知り顔で納得されたら恐縮するばかりである。
諸事情はあったにせよ、あえて人に説明するならば、
「離婚も結婚も、長く平坦な人生に彩りと変化を与えたかったから」
というのが一番ふさわしいかも。
離婚という手続きをとって、わざわざ人との縁を断ち切らなくても、
どっちかが死んだらどうせお別れさ、と10年は頑張ってみた。
「源氏物語」の登場人物たちは、人の命のはかなさを何かにつけ嘆いているが、
寿命の短かった昔の人の人生って、あっという間だったんだろうなあと思う。
とはいえ、このご時世、こっちも相手もぐんぐん長生きしそうだったし、
生前葬のつもりでついに離婚に踏み切って、次の人生に挑むことにした。
30歳で未亡人になった友人は、
「私に再婚しろと言うなら、絶対に死なないオトコを連れてきて!」と言う。
責任を放棄してあの世に逃げ込まれたようで、
悲しみよりも怒りでいっぱいだとのこと。
配偶者を看取るっていうのは、さぞ消耗することだろうなあと、
結婚に全然懲りてないサトミにもそのことだけはよく分かる。
今年で離婚してから10年、結婚が続いていれば20年。
区切りのいいところでそろそろ再婚してもいいかなと思っている相手は、
動物園に勤務する獣医のカツヤだ。
結婚したら、一戸建ての家に住んで、
サトミが唯一好きな動物・イヌを飼おうと話し合っている。
でも、愛情をかけたイヌにいつか先立たれることを考えると…辛すぎる。
「死なないイヌを連れてきて!」とカツヤにおねだりする。
再婚するにあたっての野望は、カツヤよりもイヌよりも少しだけ早くあの世に行くこと。
いい年になって結婚するということは「介護するか、されるか」のせめぎあいだ。
逃げるが勝ち!
カツヤは、サトミが呆けて暴れても、寝たきりになってしまっても、
シモの世話も厭わず淡々とやってくれそうな男だ。
「シモの世話?ああ、いいよ。エサの成分を把握していたら、フンは汚くない」
動物でひとくくりにされるのは、ちょっと心外ではあるのだが…。
「源氏物語」 著者:紫式部

