レモン・ロマン・やせガマン
レモンっていいな。
そもそも「甘い」ことを期待されてないから——。

日曜出勤のアイ子の携帯に、ボーイフレンドのヒロ君からメールが来た。

ヒロ君てマメな男だなと思う。
今日何をしていたか、最低1日1回はメールで報告してくる。
こちらが返事を返したら、それにまた返事を返してきて、最後は自分のメールで締めくくろうとする。
そういうの、フツウの行為なのか?「付き合ってる」男女の間では。

会えなかった日曜日の報告は、
「今日は1日中、庭の檸檬の収穫に励んでました」

え?檸檬って、レモン?
スーパーで1個100円の、あの酸っぱい果物のこと?
アイ子はレモンが実っている様子を見たことがない。
ヒロ君がどんな庭を持つ家に住んでいるのか知らない。
そして、そこで誰とどんなふうに暮らしているのかも。
想像はレモンの香りに煽られてぐんぐん膨らむ、が、知らないことこそ最大の魅力。
だからヒロ君との関係にはロマンがあると思う。
知りたくないんじゃない。
知りたくてたまらない、だけど知ってしまったらどんなにしょーもないか、
そのこと、ようく分かってるのだ。

「ラストタンゴ・イン・パリ」だね。
なぞの男に惹かれる女。
追いかけて追いかけて、男のすべてを手に入れたくてたまらない。
ついに男の実情が明かされたとたん、女は一目散に逃げる、逃げる。
今度は男が追いかける、追いかける。
そんなに逃げ出したくなるような実情でもなかったと思うのだけど…

いやいや、妄想女子にとって「実情」は、いつだって「失望」なのだよ。
だから、…ガマン。


「ラストタンゴ・イン・パリ」 1972年 イタリア・フランス映画
監督:ベルナルド・ベルトルッチ|出演:マーロン・ブランド/マリア・シュナイダー

妄想女子たちのC'est la vie

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高倉アリス Takakura Alice




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