チョイ役の冒険者
ミシェルはパリで弁護士をしていたそうだ。
「なぜ、日本に来たの? フランス語学校で教師なんかしているの?」

イヅミがミシェルの転勤先の学校を訪ねたのは、お別れしてから1年後。
「なぜ?」に対する答えが少しは理解できるくらい、フランス語が上達したと思ったから。
いつもの1レッスンは40分、もうそれ以上会話が続くだろうと思ったから。

「じゃあ、一晩中話そう」ということになった。

ミシェルはイヅミの手首をつかんだまま、高層ビルの森をぐんぐん突き抜けて行く。
ぼ・う・け・ん!
来た道をひとりで戻れるか不安になってきた頃、
ミシェルの住むアパートに到着した。

10畳くらいのフローリングの部屋に、机と椅子1脚、
折りたたまれた布団、大きなスーツケースがひとつ。
いつでもまたすぐに旅立てそうなたたずまい。
大きなガラス窓の向こうで、
たくさんのビルの明かりが、ながい夜を照らしていた。

「この本が僕に冒険をさせた。」
ミシェルが手渡したのは、フランス語訳の『アルケミスト』。
「なぜ?」の答えは、その本を読み終わるまで分からない!?
…取り急ぎ、日本語訳『アルケミスト』を買って読んじゃうことに…。

イヅミの人生劇場の中でミシェルが演じた役柄は「本の配達人」。
この本を手渡すためだけに舞台に登場する、かけ出し俳優演じるほんのチョイ役。
二度と彼の登場場面は無いんだけど、無くてはならなかったエピソード。
あれからイヅミがどんなふうに生きてきたか、ミシェルは知らない。

ところが、イヅミの人生に、思いがけずもう一度だけミシェルが登場する。
「あの本、もう読んだ?戻してもらえる?読ませたい人がいるんだ。」と一通のメール。
あらら、またどこかで誰かのために配達人を演じるらしい。

ミシェル、答えが分かったよ。
冒険て、あきらめないで生きることなんだね。


「アルケミスト」 著者:パウロ・コエーリョ




●最終話:妄想は賢い女の娯楽道
●第二十七話:秘められた人生計画
●第二十六話:若いだけで素晴らしい
●第二十五話:堕ちてくオトコを助けない
●第二十四話:未来は思い出よりも美しい
●第二十三話:終着点を越えて
●第二十二話:品行方正の言い訳
●第二十一話:そういう人になりたい
●第二十話:本当のお姫さま
●第十九話:昔あったかもしれない楽園
●第十八話:愛を仕分ける年末
●第十七話:ステキな小学生を探せ!
●第十六話:初恋はエクスプレス
●第十五話:帰れない観光客
●第十四話:熟女も踊る
●第十三話:あと出しジャンケン
●第十二話:家電ヒストリー
●第十一話:ご長寿アニマルのたくらみ
●第十話:食べるならとことん
●第九話:異邦人は直訳で会話する
●第八話:こだわらない性格
●第七話:白黒つけたい!
●第六話:他力本願はソレだけ
●第五話:冬眠する蝶
●第四話:イタい女
●第三話:サバイバルのことではなく
●第二話:チョイ役の冒険者
●第一話:レモン・ロマン・やせガマン


Storyteller : 高倉アリス

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