レモン・ロマン・やせガマン
レモンっていいな。
そもそも「甘い」ことを期待されてないから——。

日曜出勤のアイ子の携帯に、ボーイフレンドのヒロ君からメールが来た。

ヒロ君てマメな男だなと思う。
今日何をしていたか、最低1日1回はメールで報告してくる。
こちらが返事を返したら、それにまた返事を返してきて、最後は自分のメールで締めくくろうとする。
そういうの、フツウの行為なのか?「付き合ってる」男女の間では。

会えなかった日曜日の報告は、
「今日は1日中、庭の檸檬の収穫に励んでました」

え?檸檬って、レモン?
スーパーで1個100円の、あの酸っぱい果物のこと?
アイ子はレモンが実っている様子を見たことがない。
ヒロ君がどんな庭を持つ家に住んでいるのか知らない。
そして、そこで誰とどんなふうに暮らしているのかも。
想像はレモンの香りに煽られてぐんぐん膨らむ、が、知らないことこそ最大の魅力。
だからヒロ君との関係にはロマンがあると思う。
知りたくないんじゃない。
知りたくてたまらない、だけど知ってしまったらどんなにしょーもないか、
そのこと、ようく分かってるのだ。

「ラストタンゴ・イン・パリ」だね。
なぞの男に惹かれる女。
追いかけて追いかけて、男のすべてを手に入れたくてたまらない。
ついに男の実情が明かされたとたん、女は一目散に逃げる、逃げる。
今度は男が追いかける、追いかける。
そんなに逃げ出したくなるような実情でもなかったと思うのだけど…

いやいや、妄想女子にとって「実情」は、いつだって「失望」なのだよ。
だから、…ガマン。


「ラストタンゴ・イン・パリ」 1972年 イタリア・フランス映画
監督:ベルナルド・ベルトルッチ|出演:マーロン・ブランド/マリア・シュナイダー




●最終話:妄想は賢い女の娯楽道
●第二十七話:秘められた人生計画
●第二十六話:若いだけで素晴らしい
●第二十五話:堕ちてくオトコを助けない
●第二十四話:未来は思い出よりも美しい
●第二十三話:終着点を越えて
●第二十二話:品行方正の言い訳
●第二十一話:そういう人になりたい
●第二十話:本当のお姫さま
●第十九話:昔あったかもしれない楽園
●第十八話:愛を仕分ける年末
●第十七話:ステキな小学生を探せ!
●第十六話:初恋はエクスプレス
●第十五話:帰れない観光客
●第十四話:熟女も踊る
●第十三話:あと出しジャンケン
●第十二話:家電ヒストリー
●第十一話:ご長寿アニマルのたくらみ
●第十話:食べるならとことん
●第九話:異邦人は直訳で会話する
●第八話:こだわらない性格
●第七話:白黒つけたい!
●第六話:他力本願はソレだけ
●第五話:冬眠する蝶
●第四話:イタい女
●第三話:サバイバルのことではなく
●第二話:チョイ役の冒険者
●第一話:レモン・ロマン・やせガマン


Storyteller : 高倉アリス

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