公認バース・エデュケーター/飯村ブレットさん
『百人百様のお産』への変化は、
女性のエンパワーメントの一つの現れ
公認バース・エデュケーターとして、10年以上のキャリアを持つ飯村ブレットさん。しかし彼女は、「最も望ましいのは、バース・エデュケーターなど必要としない社会を作ることだと思う」と言って憚らない。
今や多くの国で、出産は高度医療処置の一環となり、日本も例外ではない。さらに社会の都会化・核家族化のなかで、妊娠・出産・子育ての知識が、母から娘へ、女性から女性へ、助産婦から女性へと受け継がれていく環境が、多くの文化で失われてしまった。
「女性たちが出産の主導権を取り戻そうと決意し、また子ども達に出産の素晴らしさを、暮しのなかで自然に教えられる文化を社会が取り戻さない限り、出産を控えた女性に様々な医療処置を説明する存在として、そして、一昔前までは周囲にいて、妊産婦を支えていた多くの女系親族や友人に替わって女性を励まし勇気づける存在として、『バース・エデュケーター』が今、必要とされているのだと思う」と、飯村さんは自分の現在の役割を説明する。
「バース・エデュケーターという仕事は、女性運動のなかで生まれたもの。医療行為の一つとなってしまった出産を、自律的な出産として、家族の営みの一部として取り戻すことで、女性のエンパワーメントを進めることが目的だった。そのため最初は、女性の間で産婆術を教えあうことから始ったの。また近年では、不妊治療技術の急速な進歩や、出産年齢の高齢化も、『バース・エデュケーター』の必要性を高めていると思う」と、飯村さんは続ける。
現在13歳なる長男を日本で出産した時、飯村さんは素晴らしい『出産教育』の先輩に出会うことが出来た。しかしその女性はまもなく帰国してしまったために、飯村さんは自分と考えを同じくする米国女性と二人で、『出産教育センター (CEC)』を1997年に設立した。
「当時はまだインターネットの普及率も低く、アクセスできる情報量も格段に少なかった。日本人の妊産婦に関しては、状況はこの10年間に大きく改善したと思う。また『女性のエンパワーメント(=女性主体の考え方)』という表現を、聞いたり、読んだりする機会も多くなった。でも、日本で出産すると決めた外国人向けが、それぞれの『生き方』や『人生観』にあった出産場所・出産方法を選びたいと考えた場合、それを助ける情報や専門家によるケアはまだまだ少ない」と、飯村さんは言う。
バース・エデュケーターとは?
「出産にむけた身体の変化にあわせて、クラスの女性達は何が必要かを教えてくれる。私たちは妊婦によりそい、各自に最良の指導法を見つけていく」と、飯村さんは説明する。「クラス参加者はそれぞれ、出産に関する知識を持っていて、全く白紙の状態の人でクラスに参加する女性はいないし、またバース・エデュケーターの言うことをそのまま受け入れる人もいない。また、クラス参加者が既に知っていることを繰返して言うことも、時として私たちの役目となる。それが新たな発想につながることもあるから!各妊産婦が、それぞれの考え方や生き方にあった出産法を選べるように助けるのが、バース・エデュケーターの仕事」。
更にバース・エデュケーターは、出産を控えたカップルだけでなく、既に子どもがいる場合にはその子ども、そして生まれてくる子どもの祖父母にも出産関連の情報を提供し、心理面でもサポートする。従って、求められるのは、出産に至るまでの女性の身体の変化と医療処置、そして胎児の成長・出産に関する知識だけに留まらない。「この時期の女性をとりまく社会と医療のあり方の『人類学的観点』からの理解、学習過程における社会心理学要因の理解、そして効果的な教授法をあみ出す能力も必要になる」と、飯村さんは説明する。
「バース・エデュケーターは法律で定められた資格ではないけれど、社会的に認められた団体による実習を終了し、その団体の試験をパスして初めて資格認定書がもらえる。但し数年ごとに資格の更新が必要なので、常に学習を継続しなければならない」。
◇ コーヒー・ブレイク:
こうした『難しい』説明も飯村さんから聞けば難しく聞こえないし、『なるほど!』とズブの素人でもスンナリと納得できるのは、ブレない方法論に加えて、まず相手の心を和ませるその大きな笑顔と、鈴を転がすような声があるから『100人の女性がお産をする場合、その選択法は100あって当然!』という信念に基づいた『懐の深さ』は、初対面の相手にも素直に伝わり、これが次ぎに出て来るCECのインターアクティブなクラス進行を可能にし、また効果的なものにしている。
こうした『難しい』説明も飯村さんから聞けば難しく聞こえないし、『なるほど!』とズブの素人でもスンナリと納得できるのは、ブレない方法論に加えて、まず相手の心を和ませるその大きな笑顔と、鈴を転がすような声があるから『100人の女性がお産をする場合、その選択法は100あって当然!』という信念に基づいた『懐の深さ』は、初対面の相手にも素直に伝わり、これが次ぎに出て来るCECのインターアクティブなクラス進行を可能にし、また効果的なものにしている。
CECのアプローチ
CECは独立組織なので、ここで取り上げられるのは特定施設/機関の出産管理法に限られないし、特定のメソッドやマニュアル・方式へのこだわりもないと、飯村さんは強調する。ただしCECの両親学級の基本は、『Birth Your Own Baby(子どもは女性が生むもの)。そして『女性の本能に沿った出産』と『産み方は個人の自由』という2つを信条のもと、全てのクラスが女性中心に構成されている。
「バース・エデュケ−タ−の一番の仕事は、妊産婦に自分の身体を信じることと、女性が本来持っている『自律的出産』の力を教えることだ」と、飯村さんは言う。
そのために妊産婦、特に初めての出産を控えた女性が、自分にあった出産法を見つけるのを助けるためには、まずどうしても、女性と赤ちゃんの両方の観点からの『ノーマルな出産の生理学』の説明を十分に行う必要がある。飯村さんのクラスでは、参加者が自分の身体の仕組みと能力を理解するのを助けるために、必ず参加者の身体に触れながらこの説明は行われる。「参加者のなかには、『こうした説明は、全く初めて受けた』という言うカップルも多い」と、飯村さんは話す。
『医療介入の選択』を巡るディスカッション
CECでは特に『医療介入の選択』のセクションでは、1) 陣痛の誘発・促進、2) 硬膜外麻酔、3) 会陰切開、4) 帝王切開という、参加者からの質問が集中する4つの医療介入に関して、丁寧な議論を行っている。「多様な文化背景を持つCEC参加者は、多様な情報源の情報に触れているために、それらの正誤確認と、この4つの医療介入は、日本ではどのように行われているかを最も知りたがる」と、飯村さんは話す。「既に介助者(出産法)を決めている参加者には、該当する詳しい関情報を与える。そのために、多種の介助者を網羅したネットワークを作り、常に連絡を取りながら、それぞれの組織における最新の情報を集めるようにしている。またクラス参加者がこの作業を自分で行うためのアドバイスも提供している」。
飯村さんと日本
聞いているだけで、大変な仕事だということが分るが、なぜそもそもニューヨーカーの飯村さんが、日本に住むことになったのだろう?
「子どもの頃、近所に日本人の家族が1年半ほど住んでいて、同級生だったその家の女の子とは、今でも仲良くしている。私の初来日は、帰国したその子を、学校の休みを利用して初めて一人で訪ねた時で、それはもう30年も前のこと。それから約5年後には、交換留学生として上智大学で勉強したこともある。大学卒業後は、取材でアメリカにやってくる日本のテレビのコーディネーターとして働いていた。その関係で10年間程は、何度も日本に来ていた。そんな時仕事仲間から、日本のテレビの仕事をしていた今の夫に紹介された。出会いから間もなく、彼は仕事の関係でニューヨークに住むことになり、そこで友だちとしての付き合いが始った」と、説明がサクサクッと返って来た。
外国人に関する『神話』の否定
「子どもが生まれると、いろんな面で住んでいる社会の文化と、各自が育って来た文化の違いが表面化する」と飯村さんも認める。離乳食一つを取ってみても、それぞれの文化が長年培って来た知恵や、嗜好等が反映されている。「しかしだからと言って、出産の捉え方、出産方法の選択、特に陣痛の緩和に関して、『欧米出身の外国人は、アジア諸国出身の外国人や日本人とは違っている』というわけではない。でも日本にはまだ、この間違った『神話』があるようだ」と、彼女は言う。
「CECの限られたデータだけをみても、臨月での正常出産の場合の医療介入には、外国人と日本人の間に目立った違いはない。『フランス人の妊婦は全員、硬膜外麻酔使用を希望するわけでもないし、中国女性なら全員が、会陰切開を必要としているわけでもない。同様に、日本人女性の間には、出産はこうあるべきだという統一された考え方が存在しているわけでない』と、10年以上バース・エデュケーターをしてきた経験から、私は自信を持って言える!
「更に言えば、『外国人は全員、出産についてはXXXだと信じている』と言うのは、『女性は全員、出産についてはXXXだと信じている』と言うのと同じく意味がないと思う。加速する社会の国際化・多様化のなかで、このことに気づき、自分が納得するやり方で出産をしたいと考える日本女性も増えている。 CECは、そのような日本女性・カップルのためのものでもある」と、飯村さんは話してくれた。
飯村さんのパワー源
知的でパワフルな飯村さんの一番のパワー源は、家族、特に二人の子ども。夫君の飯村和彦氏が2005年に新風舎から出版した『ダブル double』には、彼女のパワー源である2人の宝物の写真と、子どもそして家族に対する二人の気持ちが溢れている。飯村夫妻にとって、二人の子どもは『ハーフ』ではなく、『ダブル』なのだ。
※尚、本稿作成にあたっては、PERINATAL CARE 9月号(MC メディカ出版)に掲載された飯村ブレットさんの論文を参考にさせて頂いています。