
「…で、スミレちゃん、いま彼氏いるの?」
クロイワの質問はいつも直球だ。
クロイワは50代後半の売れっ子作家。
恋愛話が好きなのは、エロい興味からではなく、仕事上の探究心と受け取れなくもないが。
「いまは特にいませんよ。私に合いそうな人がいたら、紹介してくださいねー」
原稿を受け取りに来た編集部員のスミレとしては、作家のセクハラは軽い社交辞令でいなしておく。
「あ、ダメだね、君は。彼氏なんか出来ないよ」あっさりクロイワ。
「えっ?なんで?」
「男を選ぼうとしているから」
「当たり前じゃないですかぁ!高のぞみしようっていうんじゃないですよ。ただ自分に合う…」
「ほらね。その態度じゃあダメなんだよ。男なら誰でもいい、っていうんじゃないと、無理」
「ええっ?そんなぁ。じゃあクロイワさんは、女なら誰でもいいっていうんですか?」
「もちろん。女の90パーセント以上はオッケーだ」
横で聞いていた編集アシスタントの若僧まで大きくうなづいている。
「同感ですね。僕は99パーセントオッケーです!」
スミレはぎゃふんとなる。
「世の中を見渡してごらん。なんであんなにたくさんカップルが誕生していると思う?
男が、女なら誰でもいい、と寛容に受け入れてるからさ。
女が相手を選びたがるという気持ちはわかるよ。動物として優秀な子孫を残すためにね。」
スミレはほぼうなだれて、
「運命の人にビビッとかっていうのは…ない?」
「そんなこと男にあるわけないじゃん。
そういう女の幻想をあえて否定しないのは男の優しささ」
クロイワは断定する。
しかし…、そんなもんかもしれないな。
クロイワ理論を認めたくはなかったが、確かに思い当たる。
これまでスミレを追いかけてきた男は、
スミレを女神のように崇めるロマンチストな勘違い男ばかり。
そんな男は御免とばかり、片思い覚悟でこちらから迫った男は、
ほぼ100パーセント、いったんは陥落させた。
「いったんは」というのは、自分が仕掛けた男と
両想いになれたことに常に疑惑がつきまとい、
結局自分の手で壊滅させたのだ。
「私はあなたを運命の人と感じたから誘惑したんだけど、あなたも私のことそう思ってたのよね?」
という問いかけに対して、男たちはいつも的を外した回答をしてきた。
「なんでこの僕が良かったの?」とか「そりゃスミレちゃんに迫られて断る男はいないよ」とか。
それは女にとっては「ちがぁーう!」なのだ。
運命を感じ合って、お互いが惹かれあって両想いにならなきゃダメなんだ。
女なら誰でもいいなんて思われて、
たまたま誘惑されたからとひょいひょい乗ってくる男なんて、いらなぁーい!
男の恋が全部あと出しジャンケンだとしたら、男ってズルイんだなあ。
「ふっふっふっ」不敵な笑いをもらすクロイワ。
こうやって純真な娘たちの夢を打ち砕くのが趣味らしい。
クロイワに呪いをかけられて、スミレにはますます彼氏が出来そうもない。
「アメリ」 2001年 フランス映画
監督:ジャン=ピエール・ジュネ|出演:オドレイ・トトゥ
監督:ジャン=ピエール・ジュネ|出演:オドレイ・トトゥ

